ディズニー作品「ファイアボール」は何故面白いのか

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ちょうど2017年で良かった作品というキャンペーンもやっていることなので、「ファイアボール」について紹介してみようと思います。たまたま今回、「ファイアボール読書感想文コンクール」において、「宇宙海賊レジナルド賞」を受賞しまして、宇宙海賊を名乗ることを許されるという栄誉をいただいております。上記のリンク先にて名前が乗った動画が(わざわざ!)作られて掲載されておりますので、よければ見てやってください。

ファイアボールとはどういった作品なのか

メルクール暦48650年。地球ともそうでないとも明言されない惑星において、4万8千年以上前にイルカといった野生動物とそれを含む自然環境は壊滅し、人類は自らの統治ロボットに委ねていた。しかしロボットはやがて貴族化し人類はそれに抵抗を見せ始め、人類の軍隊とロボット貴族との戦争はすでに2万年に及んでいた。

面倒なのでWikipediaから引用させていただきましたが、要は遠い未来を舞台としたSFコメディ作品です。

www.youtube.com

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といいますか、無料で全話公開されてますのでこれを見ていただいたほうが早いかと思います(笑)。

SFとは何なのか

以前書いた別のエントリでも同様のことを書いたような記憶がありますが、SFっていうのは科学的に正しいかが重要なんじゃなくて、ロマンがあるかどうかが重要なんだと思ってます。もちろんサイエンスって言ってる以上あからさまに嘘を書かれても困るわけですが(笑)。ロマンっていうのはつまり想像の余地のことで、「遠い未来にはこういうことあり得るかも」「遠い宇宙にはこんな生物がいるかも」とか、そういう想像ができるって、ロマンがあるじゃないですか。

ファイアボールは何故SFたるゆえに面白いのか

「イルカが見たいわ」
「あなたはイルカを見たことがあって?」
「ただいまお屋敷の映像データベースを検索しております」
「ほう!これは愛らしい」
「そうよ、愛でてよし食べてよしよ…愛でてよし食べてよし?」
「データベースによりますと、約48,000年前まで、この地上で二番目に知能の高い生物だったとあります」
「人類は?」
「三番目のようです」

これは(一部要約していますが)第一話冒頭のセリフ。

このセリフほんとにレベル高いと思うんですけど、この短いやり取りの中だけでも、二人はイルカを見たことがない、でも屋敷のデータベースにはある(普段は必要としていないので外部HDDのような形で保存されていると思われる)、イルカを食べる人もいる(太地町とか?)、48,000年前までは存在が確認されていた、という事実が明らかにされています。

またイルカというチョイスも示唆的で、脳の密度が高いというのは有名な話ですが、SF作品でもアーサー・C・クラークイルカの島 (創元SF文庫)という作品を書いていたり、ちょっと違いますがトップをねらえでも電脳化されたイルカがヱルトリウムにのってたりしましたね。あと「イルカが攻めてきたぞ」の画像とかw

これが要はさっき僕が言いたかった、ロマンとか想像力とかの話なんですよ。語られていることと語られてないことのバランスが絶妙なんで、「じゃあ何故」っていう問いがいくらでも出てくると思います。

例えば一番目に頭のいいのは誰だったのか。幼年期の終わりみたいに「オーバーロード」みたいな存在が出てきたのか、それとも一番頭がいいのはロボットだと言いたいのか(生物って言ってるんでこれは違いそうですが)。愛でてよし食べてよしっていう場面でちょっと首をかしげてるので、食べるという概念はしってるけど意味はあまり飲み込めてないのではないか、とか。

見進めていくと人類とは戦争状態にあるということが分かるのですが、どのような理由で戦争になったのか、人類はどういった状況にあるのかも明らかにされません。さらにもっというと、遥かな未来の作品なので、もしかしたらそもそも舞台が地球ではないという可能性もあります。もうそうなってくるとディストピアものですが(笑)。

明確に描かれる「終末感」について

人類との戦争中であるという背景があるとしても、この作品では明確に終末感のある描写がなされます。例えば一期ではドロッセルお嬢様の文通相手とのやりとりの間で通信使が何人も犠牲になっているというセリフだったり、二期では明確にお屋敷が炎上しているシーンもあります。

その「明確に炎上しているシーン」に至っても、お屋敷の外が描かれることは一切ありません。ただ我々は画面の中から想像してそれ以外を想像することしかできません。

そしてその我々が想像するお屋敷以外の世界というのは、つまるところお屋敷以外の世界を知らないドロッセルお嬢様の世界ともイコールであるのです。