狂気と妄想の地獄を超えれば、ほんとうの愛へ辿り着く:Doki Doki Literature Club!レビュー

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Doki Doki Literature Club!とは、Steam / itch.ioで公開されている無料のビジュアルノベル。そもそもどういったゲームかを知りたい方には、この記事を一読してほしい。記事内では日本語はないと記載されているが、こちらから日本語パッチをダウンロードできるので、英語が苦手な方も安心してプレイできる。

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上記の記事内や、説明、ゲーム開始時点でくどいほど繰り返される「This game is not suitable for children or those who are easily disturbed.」という説明に嘘偽りはない。

まず、プレイする前に言っておきたいこととしては、

  • 説明文で薄々気付くだろうが、単なる恋愛ADVではない
  • だが、プレイヤーをびっくりさせたり怖がらせるだけのゲームでは断じてない

ということだ。

またプレイしていくにあたっては、

  • ゲームがインストールされたディレクトリを見ながらプレイするとより楽しめる(PCゲームならではの仕掛けがそこかしこにある!)
  • スタッフロールが流れるまではゲームは終わりではない

ということを頭に入れておくといいかもしれない。

ゲームとして、ネタバレを見ることで極端にゲームの驚きがそがれるタイプのゲームなので、本当の本当に怖いのが苦手な人とか子供以外は是非今すぐにでもやってほしい。ボリュームとしてはそれほど大きいわけではなく、3〜4時間くらいでプレイできるはずだ。

※ここから先は軽度のネタバレが含まれます。未プレイの方は読まないことを推奨します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この作品のシステム的な源流としては、恐らくは90年代のエロゲー/ギャルゲー、特にkeyやLeaf、いわゆる葉鍵系と呼ばれたソフトや、沙耶の唄など、18禁である事を逆手に取ったような作品群にまで辿ることができるだろう。

もしくは、終盤に存在するあるメタ的な演出は明らかにスーパーファミコンソフト「マザー2」の影響を感じられる。狂気めいた演出についても同じく「マザー2」や、その演出を受け継いでさらに先鋭化させた「Undertale」などの影響を指摘してもいいのかもしれない。

 

一見恋愛ADVなこのゲームが真相を明らかにしだすのは、一周目の終盤。

一見ヒロイン風のSayoriが、突然ある行動を行う。そして現れるENDの文字。

混乱しながらも再度タイトル画面をみてみると、そこには「New Game」の代わりに何やら見慣れない文字化け風の文字が。クリックすると二周目が始まるのだが、そこから先は怒涛の勢いの演出がたたみかけてくる。

テキストを文字化け風に見せてみたり、女の子の顔のグラフィックをノイズ風にしたり、マウスカーソルの操作を乗っ取ったり、さらにはインストールフォルダに勝手にファイルを作ったり、ありとあらゆるメタ的な手段でプレイヤーを混乱と恐怖に叩き込む。(ゲーム内での週末の間、延々文字化けしたテキストを読ませられるのは本当にきつかった)

だが、単に怖いだけのゲームであればここまでの評価はつかない。さらに先があるのだ。

黒幕であるキャラクターがラストに明かすのは、悲壮なまでの覚悟と、そして愛だった。

それまでの陰惨な展開を経験しているからこそ、その愛は光り輝き、プレイヤーの心をうつ。

※ここから先は強度のネタバレが含まれます。未プレイの方は絶対に読まないように!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の最後、Monikaのファイルを削除した後、彼女は後悔めいた独白を始める。私のしたことは本当に正しかったのか。私の我欲ではなかったのか。あなたの心を傷つけるような酷いことをする権利が私にはあったのか。

消え行くMonikaのセリフを聞き、プレイヤーの心は揺さぶられる。今度は我々が「こんな事をして良かったのか」と後悔する番だ。恋に恋した、もしくはまだ見ぬ世界にあこがれていただけの少女を存在ごと消してしまうような事をしてしまって良かったのか。

しかし、もう一度ゲームを起動してもMonikaはもういない。見えるのはタイトル画面に不自然に残った空白だけだ。

そのままプレイを進めると、ゲーム内で異変が起きる。その時、Monikaは僅かに残った力で、ゲーム自体を破壊する。

そう、他でもないあなたを開放するために、Monikaはこの呪われたゲームを世界ごと破壊したのだ。楽しかった思い出や、クラブのみんなや、文化祭、それに自分自身も、全て。

Monikaは残された手紙で、あなたに感謝の言葉を述べる。本当に楽しかったと。私の文芸部の一員となってくれてありがとうと。「永遠の愛をこめて」と!

その瞬間、Monikaが持っている気持ちはもはや恋ではなく、無償の愛、無私の愛とでも呼ぶべきものだ。ただあなたへの感謝と愛だけだった。

もうゲームは起動することさえできない。ただMonikaの手紙が表示されるだけだ。

Monikaの魂は、呪われたゲームの中という世界から開放され、昇華されたのだ。

どうか、どうかこの純粋な少女の魂に、幸あらんことを。